下町情緒を懐旧的に描く荷風の名編。
「すみだ川」は、親に勘当されて若隠居となった俳諧師松風庵蘿月とその妹で常磐津の師匠をするお豊、その息子長吉との交流を描く。
蘿月は老若の懸隔を痛感し、絶望する。風景描写が美しい。荷風の西欧帰国の翌年、30歳に書かれた作品。
「墨東綺譚」は、私娼窟・玉ノ井を舞台に、小説家・大江匡と娼婦・お雪との出会いと別れを、季節の移り変わりとともに美しくも哀れ深く描いている。
文末の「作後贅言」は、作品本体とは別に、昭和初期の世相、銀座のカフェー風俗などが描かれていて貴重。